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第13章 人間は、選択肢が増えると判断に時間がかかる

3 択、30 択、300 択。数だけ見れば、後者ほど難しそうです。しかし、知っている操作を押す、目的の会場を探す、好みのプランを比べるのは異なるタスクです。

本章では、選択肢数、情報量、探索、分類、属性比較、選好形成を分けます。Hick–Hyman Law を「メニューを減らす法則」にせず、選択肢が多いことで選択を避けたり満足が下がったりする Choice Overload とも区別します。

この章の必修は三つです。

  1. 選択反応、既知項目の探索、好みの比較を分ける
  2. 個数を減らす前に、ラベル、分類、検索、比較可能性を見る
  3. 変更後に、時間だけでなくエラー、先延ばし、満足、副作用を確認する

本章では、タスクを分類し、現在の候補集合・ラベル・順序・手がかりを記録し、原因候補を一つ選び、一軸だけ変え、対応する結果と副作用を測る、という判断手順を使います。

13.1 3 択、30 択、300 択で何が変わるか

三つのボタンから指示された一つを押す課題、30 件から既知の会場を探す課題、300 のプランから好みを形成する課題を並べます。

3 択・30 択・300 択を示す図。
図 13-1 3 択・30 択・300 択

一つ目は刺激と反応の対応、二つ目は探索、三つ目は属性比較と選好形成を含みます。件数とタスクが同時に変わるため、三面の成績を「数の効果」として直接比較しません。

観察するときは、まず選択コスト台帳を作ります。

時点タスク候補集合手がかり判断結果
操作選択指示へ反応3 操作位置・ラベル対応する操作反応時間、エラー
会場探索既知対象を探す30 会場検索、分類対象一致探索時間、誤選択
プラン比較好みを作る300 プラン属性、並び替え、比較表トレードオフ選択、先延ばし、満足

13.2 Hick–Hyman Law がモデル化したもの

簡単に言えば、学習された複数の刺激―反応対応から一つを選ぶとき、不確実性が大きいほど反応時間が長くなる関係をモデル化します。

Hick–Hyman の式を示す図。
図 13-2 Hick–Hyman の式

等確率の n 択なら、情報量は log₂(n) bits と表せます。より一般には各選択肢の確率 pᵢ を使い、Entropy H = Σpᵢlog₂(1/pᵢ) を考えます。反応時間はしばしば RT = a + bH の形で表されます。

式の意味は「8 項目なら 3 秒」ではありません。ab は課題、参加者、装置、刺激―反応の対応しやすさ、練習等に依存します。Hick と Hyman の実験は、意味を読みながらウェブサイトをナビゲーションする課題ではありません。

Hyman が確率を変えた点も重要です。よく現れる刺激を予測できる場合と、すべてが同確率の場合では情報量が違います。実際の UI でも、利用頻度、既有知識、位置の安定性は均等ではありません。

13.3 「Menu は 7 個以下」という誤解

7±2 は Miller の記憶研究から広まった数字です。Hick–Hyman は選択反応時間です。ナビゲーションはラベルの意味を読み、情報構造を予測し、探索します。三つを一つの「7 個ルール」にしません。

7 個以下の誤解を示す図。
図 13-3 7 個以下の誤解

12 項目でも、利用者の語彙に合う明確なラベルが同時に見えれば探せるかもしれません。6 項目でも「Solutions」「Resources」のような重なるラベルを階層間で覚えるなら迷います。

数を変える前に、次を見ます。

  • 対象を事前に知っているか
  • ラベルから行き先を予測できるか
  • 分類は互いに区別できるか
  • 現在地と戻り道が残るか
  • 検索できるか
  • 頻用操作の位置が安定しているか

13.4 Choice Overload は同じ話ではない

Choice Overload は、選択肢が多い条件で選択しない、満足が下がる、後悔が増える等の結果を扱う研究領域です。選択反応時間のモデルとは同じではありません。

Choice Overloadを示す図。
図 13-4 Choice Overload

Iyengar と Lepper の研究は代表的ですが、そこから「6 択が正解」とは言えません。Scheibehenne らのメタ分析では平均効果はほぼゼロで、研究間の分散が大きいと報告されました。領域、選好の明確さ、属性の比較可能性、時間、推奨、結果が関わります。

反応時間、購入、先延ばし、満足、後悔を一つの「迷いスコア」にしません。何を改善したいかを先に決めます。

13.5 検索できる 100 件と、分類のない 30 件

同じ 100 件が一列に並ぶ画面と、同じ 100 件を名前で検索できる画面を比べます。A/B では検索の有無だけを変えます。さらに B/C で分類だけを加え、検索効果と分類効果を混ぜません。

検索できる 100 件を示す図。
図 13-5 検索できる 100 件

ただし、検索は対象の語彙を生成できる人を助けます。名前を知らず、条件から探す人には分類やフィルターが必要です。誤字、別名、表記揺れ、検索結果なし、古いデータも確認します。

「100 件でも検索できるから問題ない」とも言えません。比較タスクでは、検索結果から一件ずつ開くより、属性を同時に並べる方がよい場合があります。

13.6 カテゴリー、絞り込み、並べ替えの役割分担

カテゴリー・絞り込み・並べ替えを示す図。
図 13-6 カテゴリー・絞り込み・並べ替え
  • カテゴリー: 情報空間を意味のある階層やまとまりとして辿る
  • フィルター: 条件に合わない候補を除き、集合を狭める
  • 並び替え: 同じ集合の順序を変える

「東京」はカテゴリーにもフィルターにもなり得ます。重要なのは部品名ではなく、利用者のタスクに何をさせるかです。フィルター適用中の条件、結果件数、解除方法を見せます。並び替えは現在の基準と昇順/降順を示します。

カテゴリーを深くすれば、前の候補を覚えて往復するコストが増えます。複数カテゴリーに属する対象もあります。分類は世界の唯一の正解ではなく、タスクのための情報編集です。

13.7 Progressive Disclosure は隠せばよいのか

詳細設定を折りたたむと、最初の画面は短くなります。しかし、必要な操作部品が見つからない、複数セクションを比較できない、エラーが閉じた中に隠れる場合があります。

Progressive Disclosureを示す図。
図 13-7 Progressive Disclosure

全表示、折りたたみ、ステップ化のトレードオフを見ます。

  • 発見できるか
  • 全体像を把握できるか
  • 前後を比較できるか
  • 戻った後に状態が残るか
  • 直接リンクできるか
  • エラー発生時に対象を開けるか
  • キーボードとスクリーンリーダーで状態が分かるか

隠す量ではなく、必要な時点と取得コストを設計します。

13.8 主要操作を一つにする条件

同じ画面に「購入」「資料請求」「相談」が同じ強さで並び、同じ利用者の次の一手を競うなら、優先順位が未定義かもしれません。一方、業務テーブルの各行に「承認」がある場合は、行ごとの並列操作です。

主要操作を示す図。
図 13-8 主要操作

数ではなく範囲、結果、取り消しにくさ、タスクを確認します。主要スタイルを一つに減らしても、ラベルが曖昧なら迷いは残ります。複数操作を消すと、頻繁な業務が遅くなる場合もあります。

13.9 問い――減らすべきは選択肢か、迷いか

章末課題を示す図。
図 13-9 章末課題

問い

  1. これは選択反応、探索、比較、選好形成のどれですか。
  2. 候補数以外に何が違いますか。
  3. カテゴリー、フィルター、並び替え、検索のどれがタスクを助けますか。
  4. 何を隠すと、何を思い出させますか。
  5. 結果は時間、エラー、選択、満足のどれですか。
  6. 一つだけ何を変え、どんな結果なら仮説を疑いますか。

答えの例

利用者は既知の会場を 30 件から探索しています。候補数だけでなく、ラベルの先頭が切り詰められ、検索がありません。全件を削る前に、完全な会場名を表示し検索を一つ追加すると、探索時間と誤選択が減る可能性があります。データ、対象、順序、タスクを固定します。時間が変わらない、または検索結果なしが増えるなら、語彙や分類の別仮説を検討します。

六問への回答では、タスク分類、候補数以外の観察、選んだ支援、隠した情報、結果、一軸変更と反証条件が一対一に書かれているか確認します。

この例では、1 は既知対象の探索、2 はラベル切り詰めと検索不在、3 は検索、4 は何も隠さない、5 は探索時間と誤選択、6 は完全ラベルだけを変え、改善しなければ語彙仮説を疑う、という対応です。

別の答え方

利用者が名前を知らず条件から探すなら、検索追加だけでは助かりません。地域と収容人数のフィルター、属性比較を優先します。

よくある考え方

選択肢を 7 個以下にします。

注意点

7 の根拠、タスク、ラベル、分類、結果がありません。減らした候補が別階層へ隠れ、往復を増やす可能性があります。

セルフチェック

  • 選択反応、探索、比較、選好形成を分けられる
  • Hick–Hyman と Choice Overload を同じ法則にしていない
  • 個数以外の一軸変更、結果、副作用、反証条件を書ける

参考

  • Hick (1952), DOI: 10.1080/17470215208416600 — 原典。選択反応課題とエラー条件を読みます。
  • Hyman (1953), DOI: 10.1037/h0056940 — 原典。確率と系列依存による情報量を確認します。
  • Proctor & Schneider (2018), DOI: 10.1080/17470218.2017.1322622 — 専門レビュー。対応しやすさと現代的説明への入口です。
  • Iyengar & Lepper (2000), DOI: 10.1037/0022-3514.79.6.995 — Choice Overload の代表研究。三つの研究の結果を分けます。
  • Scheibehenne et al. (2010), DOI: 10.1086/651235 — メタ分析。平均効果と異質性を確認します。