第24章 人が使うと、作者の予想から外れる
デザイナーは画面を作りながら、「この分類なら商品を見つけられる」「このボタンならすぐ押せる」と予想します。しかし、初めてその画面を見る人は、作り手が考えた順番どおりには動きません。
見出しではなく検索欄から読み始めるかもしれません。作者には当たり前だった言葉で止まるかもしれません。反対に、作者が難しいと思っていた場所を迷わず通り過ぎることもあります。
人が Web サイトを実際に使う様子を見る調査を、ユーザビリティテストと呼びます。テストされるのは参加した人の能力ではありません。画面や言葉が、作り手の予想どおりに伝わったかを確かめます。
24.1 作り手は、画面のことを知りすぎている
商品一覧を作ったデザイナーは、どの分類に何が入っているかを知っています。「文具」を押せばノートが見つかることも、「保存」と「公開」の違いも知っています。
初めて来た人には、その知識がありません。だから、作者自身が迷わず操作できても、画面が分かりやすい証明にはなりません。
人が使うところを見るときは、答えを先に教えません。「文具を開いて、青いボタンを押してください」と伝えれば、その通りに進めます。しかし、それでは分類やボタンを自分で見つけられるかは分かりません。
たとえば、「来週火曜に最も早く届くノートを選び、購入する直前まで進んでください」と伝えます。どこを押すかではなく、達成したいことだけを示します。すると、その人がどの情報を探し、どんな順番で商品を比べたかが見えてきます。
参加する人の経験も大切です。オンラインストアを毎週使う人と、初めて使う人では、知っている決まりが違います。スマートフォンとパソコンでも操作は変わります。「利用者なら誰でも同じ」とまとめず、どんな経験の人が、どの機器で使った場面なのかを考えます。
24.2 止まったことと、止まった理由は同じではない
ある参加者が、ノートを探す場面を見てみます。最初に検索を使い、その後で二つの分類を行き来しました。24 秒のところで操作が止まり、34 秒で商品を選びました。
図 24-4A から確実に分かるのは、画面上で起きた四つの出来事です。「分類の名前が分からず迷った」とは、まだ言えません。文章を読んでいたのかもしれません。商品を比べて考えていたのかもしれません。通信を待っていた可能性もあります。
同じ 24 秒のところで、参加者は「探しています」と話しました。
この言葉から、ただ休んでいたのではなく、何かを探していたことが分かります。それでも、何が分からなかったのかまでは決まりません。
行動、実際に話した言葉、作者が考えた理由を分けると、想像を事実のように扱わずに済みます。その後で画面を見返すと、分類名、検索結果、商品の並び方など、次に確かめたい場所が見つかります。
24.3 すぐ助けると、その先の行動が見えなくなる
参加者の操作が止まると、作り手は「そこではなく、右のボタンです」と教えたくなります。しかし、答えを伝えた瞬間、その人が自分で次に何をしようとしていたかは分からなくなります。
少し待つと、説明を読み直す、前の画面へ戻る、検索を試すといった次の行動が現れることがあります。それでも課題を忘れてしまった場合は、押す場所ではなく、「来週火曜に届くノートを探します」のように最初の目的だけを伝え直します。
ヒントを出したあとで商品を見つけられても、一人で見つけた場合とは分けて考えます。ヒントが悪いのではありません。先の画面を見るために助けることはあります。ただし、どこから助けが必要だったかを消さないことが大切です。
安全は別です。個人情報を本当に送信しそうなとき、苦痛を感じているとき、金銭やアカウントへ影響が出そうなときは、観察を続けず止めます。調査より参加した人を守ることが優先です。
24.4 「使いやすかった」と、途中の行動は両方残す
操作を終えた人が、「使いやすかったです」と話すことがあります。その感想は大切です。しかし、途中で分類を何度も往復した行動まで、なかったことにはなりません。
感想と行動は、どちらか片方が正しいのではありません。全体としては使いやすかったが、商品を探す場面だけ時間がかかったのかもしれません。気を遣って肯定的に答えた可能性もあります。反対に、途中で戻っていても、本人には自然な確認だったこともあります。
「どの場面が使いやすかったですか」「探していたとき、何を見ていましたか」と具体的な場面を聞くと、短い感想と行動を結びつけやすくなります。
一人が困ったことを、「一人だけだから」と無視する必要はありません。その人が実際に出会った問題です。一方で、一人の行動を「全員がこうする」と広げることもできません。誰が、どの機器で、どんな目的を持って使ったときに起きたのかを残します。
24.5 記録する前に、本人が選べるようにする
人が使う様子には、個人に関わる情報が含まれます。画面に名前が映るかもしれません。声から本人が分かることもあります。操作の記録から、仕事や生活の状況が見える場合もあります。
そのため、調査を始める前に、何を記録し、何のために使うのかを説明します。
図 24-7A では、画面録画、音声録音、操作記録を一つずつ選べます。音声は断り、画面と操作だけを許可することもできます。集めるのは、本人が内容を理解して選んだ記録だけです。
本物の住所やクレジットカードを入力させず、調査用の架空データを用意します。参加者を募集するための連絡先と、調査中の記録も分けて保管します。報告には、目的に必要な部分だけを使います。
同意は、一度ボタンを押せば終わりではありません。途中で止めたくなったときの方法や、いつまで記録を削除できるかも、始める前に伝えます。先生と生徒、上司と部下のように断りにくい関係では、参加しなくても不利益がないことを特にはっきりさせます。
24.6 予想と違ったところが、次のデザインになる
作り手は「分類が重複しているから迷った」と考えていたかもしれません。しかし、実際には分類名の意味で止まっていた可能性があります。検索結果に必要な情報がなかったのかもしれません。重複した分類が、別の探し方を助けていたことも考えられます。
人が使うところを見る目的は、自分の案が正しかったと証明することではありません。予想と違う行動から、画面だけを見ていたときには気づかなかった理由を見つけることです。
作者の予想、画面上で起きた行動、本人が話した言葉を分ける。そして、分からなかったことを残したまま、次の画面を考える。この繰り返しによって、デザインは作り手の頭の中だけにある正解から、実際に使われる形へ近づいていきます。
参考
- GOV.UK Service Manual「Using moderated usability testing」— 進行役が参加者と一緒に行う調査の公式案内です。
- 第19章「『なんか変』を観察する」— 見えたことと、その理由について考えたことを分けます。
- 個人情報保護委員会「個人情報保護法について」— 記録を扱う前に確認したい日本の公式情報です。