第 III 部統合ケース 規則を覚え、例外に出会い、回復する
第 15〜18 章では、人が過去の経験を持ち込み、繰り返しから次を予想し、操作への反応を期待することを見ました。ここでは、架空の権限申請サービスを初めて使い、通常の申請を繰り返し、例外と通信障害に出会う流れを追います。
人の頭の中を決めつける物語ではありません。画面で起きたことと、そこから考えられる説明を分けて読みます。
1 三回の反復から規則を予想する
一件目の共有フォルダ申請には、青い「申請する」ボタンがあります。
二件目の企画資料でも、同じ位置と色のボタンが同じ役割を持っています。
三件目の売上資料でも同じです。三回の反復によって、見た目と役割の関係が強くなります。
三つの画面では、資料名だけが変わり、青いボタンの位置、形、「申請する」という働きは繰り返されています。利用者は、まだ見ていない次の画面にも同じ規則が続くと予想するかもしれません。ただし、三回見ただけで全員が同じ規則を覚えたと断定はできません。
2 一件だけ違うと、予想が揺れる
四件目には、赤く角の丸い「緊急申請」ボタンが現れました。色、形、文言がそれまでと違います。
この違いには、緊急性を強く伝えるデザイン上の意図があるかもしれません。通常申請とは扱うデータや業務上の種類が違い、その差を見せた可能性もあります。反対に、古い部品や実験中の設定が一件だけ残っているのかもしれません。画面だけでは、必要な例外と実装上の取り残しを区別できません。
「一貫性がないから直す」とすぐ決めると、必要な警告まで消すかもしれません。表現の意図、データ、実装を別々に確かめます。
3 時間切れは、失敗したという意味ではない
申請ボタンを押したあと、画面には時間切れが表示されました。利用者から見ると、成功したのか失敗したのか分かりません。
この例では、サーバー側の申請はすでに成功していました。画面とサーバーで、知っている状態がずれています。
ここで申請ボタンをもう一度押すと、同じ申請が二重に作られるおそれがあります。送信時に発行した「受付番号 A42」を使い、最初の申請がどうなったかを確認します。受付番号は、一回の申請をあとから見分けるための番号です。
成功が確認できたら、画面を「申請済み」へ更新します。利用者の見える状態と、サーバーの状態が再び一致します。
4 「覚えた」を一回の成功だけで決めない
初回では、このサービスの規則をまだ知りません。そこで成功したなら、以前に使った別のサービスの慣習が助けた可能性があります。直後に同じ内容をもう一度使う成功には、いま見た画面を覚えている影響が大きくなります。
翌日に同じ内容を使えたなら、直後より長い時間を越えて規則が残った可能性があります。さらに、別の資料でも同じ操作を使えたなら、一つの画面を丸ごと覚えただけでなく、規則を別の内容へ移せたのかもしれません。初回、直後、翌日、別内容は、それぞれ違うことを示します。一つの成功を見て「直感的だった」「学習できた」とまとめません。
5 人は規則を使う。だから例外と回復も設計する
同じ見た目と役割を繰り返すと、次の操作を予想しやすくなります。例外が必要なら、何が違うのかを分かるようにします。操作の結果が分からない場合は、失敗と決めつけず、安全に確認して戻れる道を用意します。
人は知っている使い方を持ち込み、画面の反復から新しい規則を学びます。その予想を利用することも、必要な例外を説明することも、Web デザインの一部です。